IP電話とは(ビジネスフォン、クラウドPBX系)
IP電話とは、簡単に言ってしまうと、これまでの電話回線網を使わず、インターネットを通信経路として使う電話のこと。そういう意味では、Lineの音声通話だって、IP電話の一種だが、ここで取り上げたいのは、ビジネス用途のIP電話。私の勤務先で数年前に導入したIP電話は、各電話機にIPアドレスを持たせ、クラウドPBXを使うもの。イメージとしては、PCがインターネット経由でクラウド上のサーバーにアクセスするのと同じで、電話機はクラウドPBXにアクセス。電話機はインターネットに接続できる環境さえあれば、どこでも同じ電話番号で使える。だから営業拠点の移転や統廃合の際も電話番号の心配をする必要がない。電話機が「電話番号を持っている」のだから。確かにこれは便利なのだが。
ネットで検索してもあまり見かけない、IP電話のトラブル例
今回、この記事を書くに当たって、改めてネットでIP電話の不具合について調べようとしたのだが、ほとんど出てこない。ネガティブな情報として出てくるのは、、通話時の音声品質の話ばかり。しかしこれまでのところ、通話時の音声の品質で現場が困っている、という話は聞かない。それよりも現場から上がってくる話とは、通話品質とは次元が違う問題だ。
PCと似ている
導入した電話機は、SAXA製であった。電話機メーカーとしては最大手で、品質に問題は無いと思う。忘れては行けないのは、電源を必要とすることだ。LANケーブルで給電するので、PoEハブを使うことになる。このPoEハブのOUTPUTに余裕がないと、やはり不安定になるようだ。(SAXA製ビジネスフォンの消費電力は、カタログによると約6.0W)PCと似て、調子が悪くなっても、基本的に再起動で直るのだが、特に不具合が多い電話機の場合は、電源をPoEからACアダプタに変えてみると、安定する可能性がある。ただし、電話機1台にケーブルが2本つながるというのは、これまでの電話機=ケーブル1本という状態に慣れているので、けっこう煩わしく感じるものだ。
電話機相手にFTPかよ?
もうひとつ、導入早々に「めんどくさい!」と思ったのは、各電話機への電話帳の登録だ。PBXが事務所内にあるオンプレミス型であれば、主装置の方で設定するだけで済むのだが、我が勤務先で導入されたものは、各電話機に短縮などの電話帳のファイル(CSV)をFTPでアップロードしなければならない!ベンダーに頼めば有償だそうで、自分たちでやるしかない。電話帳の変更は時々発生するので、いちいち頼んでられない。電話機の台数が多いとうんざりする。FTPって何?という人にとっては、悪夢のような状況になる。細かいところだが、ベンダーの営業さんには、この辺りのことも確認したほうが良い。
霊現象かよ?
IP電話を使っている現場からよく上がってくるクレームは、電話が通話の途中で切れてしまう、というものだった。音声品質以前の問題だ。さらに電話が取れない、というものも何度かあった。ただ取れないのではない。鳴っている電話の受話器を取ると無音。しかも受話器を取ると同時に、他の電話機が鳴り始める。取った電話は無音なので受話器を置き、鳴り始めた電話機にかけよって受話器を取ると、これまた無音だ。そしてそれと同時にまた、他の電話機が鳴り始める。そのフロアには15台ほど電話機があるのだが、そうやって、15台全ての電話機が鳴るまで続き、結局、電話は取れずに終わるのである。この現象に遭遇した現場の人間からは「モグラ叩きゲームのようだ」「心霊現象かよ?」など、不満と不安の声が上がった。私も一度、現場に居合わせたことがある。鳴っている電話を取ったものの通話ができず、受話器を置くと他の電話がなり始め、という例の「モグラ叩き状態」になり、最終的にフロアの電話機すべて、受発信ができなくなった。受話器を耳に当てても全く音がしない。あたかも霊界につながっているような不気味な無音状態だった。
非科学的手法で直す
IP電話はSIPというプロトコル(SIP)で制御されている。簡単に言うと、
1.相手の電話機を呼ぶ(接続要求、電話機を鳴らす)
2.相手が受話器を取る(確認応答、話してもいいよ〜)
3.通信確立!じゃ音声データ送るね
という流れになる、たぶん。
いい加減ながらそんな理解をしていたもので、このホラー、いやエラーを見て、まるで受け取ってもらえなかったパケットがLANの中をぐるぐる回って、電話機を鳴らして回っているように思えた。そこで最初に電話を取り損なった電話機のところへ行き、ケーブルを抜いて再起動してみたところ、その電話機のみならず、フロアのすべての電話機が見事に復旧したのだった。やはりPCと同じで、「困ったときはとりあえず再起動」だ。しかし何が悪かったのか、なぜ直ったのか、私の知識量では理論的な説明ができない。まるで祈祷師になったような気分だった。ちなみに電話機メーカーのSAXAは、世界最大級の電話機メーカーであって、いい加減な会社ではない。このトラブルも設置場所のネットワーク環境に問題があるのかも知れない。
PCのように気を使う必要がある
電話機メーカーのSAXAは、世界最大級の電話機メーカーであって、いい加減な会社ではない。私も電話機の悪口を言いたいわけでは無い。このトラブルの原因も、電話機そのものではなく、設置場所のネットワーク環境に問題があるのかも知れない。とはいえ、ですよ、いままで雑に扱っても問題がなかった電話が、PCのように気を使うものになった、ということは否めない事実。その面倒を見る人的リソースがこの会社にあるのか?ということを、前任者は導入前に考えてほしかった(涙)
アルテリアネットワークスの大規模障害
もうひとつ、参考にしてほしいお話をひとつ。今から1年ほど前のこと、アルテリアネットワークスという通信キャリアで大規模な障害が発生し、終日、受発信ができなかったり、不安定な状態になった。前述の「心霊現象」の現場と、もうひとつの営業拠点の電話のシステムが、アルテリアネットワークスのインフラを使っていて、この2拠点、両方から「電話が使えない!」とほぼ同時に連絡が入ったので、アルテリアNWの障害だな、とすぐにわかった。わかったのだが、どうすることもできない。ベンダーも顧客からの連絡で把握はしていた。裏を返すと、アルテリアからはなんの連絡もない。ちなみにアルテリアネットワークスという会社は、大手商社や通信会社が出資する、立派なキャリアである。障害発生頻度も高くはない。このときの大規模障害は、異例だったと言ってもよく、ディスるつもりはない。それにドコモ、au、ソフトバンクの3大キャリアでも、大規模障害は起きている。ただ、3大キャリアと違うところが一つある。それは、大規模障害が起きてもニュースで報道されないことだ。
3大キャリアの障害はニュースでわかるけど
3大キャリアの障害はニュースでわかるけど、アルテリアをはじめとするクラウド系のキャリアの障害は大きなニュースにならない。(陰謀論ではないよ)その理由は、ほとんどが法人向けのサービスで、一般の人には直接的な影響がないからだろう。さらに言えば、ニュースにならない上に連絡も無いので、ユーザー(企業)も知る由がない。「なんか、今日は電話注文が少ねえなあ」なんてのんきなことを言っていたら、電話が不通になってましたよ、なんてことが起こり得る。誰かがキャリアの障害ではないか、と気がついて、キャリアのホームページまで見に行き、障害情報をチェックするしか、状況を知る方法がないのである。また、顧客側(電話をかける側)も、障害が起きているなんて知りようがないので、「なんだ、この会社、電話つながらねえぞ、潰れよったか?」なんて、あらぬ信用不安を招く恐れもある。導入の際はこの点も一つのリスクとして、社内で一度、議論するべきだと思う。
営業も普通の人たち
クラウドPBXを売り込みに来る営業の人たちも普通の会社員であって、自分からわざわざ「障害」の説明をしてくれたりはしない。こちらからきっちり質問しなければならない。以下、先日、某クラウド系の電話屋さんとの会議で投げた質問である。ご参考になれば、幸いだ。
1.過去1年間で、5分以上の障害は何回、発生しましたか?
2.障害発生時、メールなどでアラートを出してくれますか?
3.障害が長引いた場合、電話転送などで受発信を可能にする方法はありますか?
ユーザー側が考えるべきこと
私の勤務先の場合は、前述の大規模障害で、顧客との連絡手段が電話だけでいいのか、という議論に発展した。よいことだと思う。障害が心配だからといって、クラウド系の電話を全否定してしまうのもどうかと思う。それより、リスクヘッジをしながら前進するほうが私の好みだ。今はLineとかもあるし、電話がダウンしたときは、これで周知して、問い合わせはこれで受けましょう、社内との連絡手段は、こうしましょう、といった段取りは、平時から考えておくべきだし、できれば予行演習くらいしておくべきかも知れない、などと年寄りは考えてしまうのでした。以上、ご参考まで。