外注トラブル グラフィックデザイナー編

メディア

グラフィックデザイナー(デザイン会社)の選び方

世の中、デザイナー、と一言で言っても、いろんな種類のデザイナーがいるわけです。Webデザイナー、グラフィックデザイナー、工業デザイナー、服飾デザイナーなどなど。そして印刷物の制作はグラフィックデザイナー(DTP系のデザイナー)に頼まないといけません。

近年、主要な宣伝媒体として、新聞、雑誌、チラシ、DMなどのいわゆる紙媒体は影が薄くなりました。宣伝担当などの会社員の方が接する機会が多いのは、Webデザイナーではないでしょうか。ところが最近になって、ウェブと印刷物、両方やりますよ〜というハイブリッドなデザイナーやデザイン事務所も増えてきているようでな気がします。頻度は減ったものの、たまに発生する紙媒体のお仕事、久しぶりにグラフィックデザイナーに仕事を頼もうとしたら、もう引退していた、なんてことも起こります。

そんなとき、すでにお付き合いのあるウェブ屋さんが「印刷物もやる」と言ってくれれば、渡りに船、じゃ、お願いしようかな、と思ってしまう訳です。発注先もまとめられるので一石二鳥です。

デザイナーを見分けるのは難しい

問題はそのデザイナーが、Web系の人なのか、印刷物系の人なのか、簡単に見分けることが難しいということです。印刷物の仕事を間違ってウェブ系のデザイナーに依頼してしまうと大変なことになります。表題の「地雷」というのはこのことです。

ウェブと印刷物、制作過程では同じアプリ、Adobeの Illusutrator (イラレ)や、Photoshop(フォトショ)を使います。しかし同じアプリを使うからと言って、ウェブと印刷物、両方の仕事ができるようにはなりません。

モニターではキレイに見える

仮にA4サイズでチラシを作ってくれ、と頼んだとします。そして数日後、確認用のPDFが届きます。モニターで見る限りキレイで、デザイン的にも問題ありません。しかし、印刷会社に入稿するためのPDFの作り方にはいくつか決まり事があって、そのPDFが印刷用データとして適正なものかどうか、普通、クライアントにはわかりません。

私の場合は、たまたま印刷関係の知識が多少あったので、途中からなにか変だなと気が付きましたが。そして最悪のパターンは、作っているデザイナー本人も印刷物制作の経験がなく、正しいデータかどうかがわかっていない、という場合です。入稿先の印刷屋さんや広告代理店からデータの不備が指摘されて、はじめて問題が表面化するのですが、クライアントもデザイナーも対処できない事態になります。気がついたら地雷原の真ん中で、出るに出られない状況となります。

印刷物特有のルール

ウェブ制作にもいろいろ決まり事があると思います。それと同じで印刷物制作にもいろいろルールがあります。

印刷物はCMYK

ウェブやアプリ、映像系の仕事をしている人が日常扱っているのは、R(レッド)G(グリーン)B(ブルー)で色を表すRGB画像です。デジタルカメラもRGBで画像を記録しますし、PCやタブレットのモニターもRGBです。日常接する機会があるのは、RGB画像のみと言っても過言ではありません。一方、印刷物はCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)4色のインクで、カラーを再現しようとします。PhotoshopでRGB画像をCMYKの画像に変換するのは簡単です。編集にある「プロファイル変換」を使うと「モード変換」より良い結果が得られます。プロファイルは、JapanColor 2001 CoatedかJapanColor2011 Coatedの使用が推奨されています。

しかし、正しい変換を行っても問題が起こります。どうしてでしょうか?例えば鮮やかなグリーン。RGBのGを使えば美しく表示できますが、印刷物の場合、シアンとイエローで再現しなければなりません。ショッキングピンクはどうでしょう。マゼンタでなんとかなりそうですが、プリントすると、なんだか沈んだ感じになります。RGBが発光体であるのに対し、CMYは光の反射(あるいは吸収)体なので、どうしても鮮やかな色の再現は苦手だからです。そのため変換後の画像の色調整が必要になる場合もあります。

通常の印刷では特色は使えません

印刷用のデータを作成するソフトの代表格は、Adobe illustratorですが、印刷物専用というわけではありません。だから通常の印刷では使えない色も扱うことができます。例えば特色というものがあります。CMYKではどうしても作れない色を使いたい、となったら特色の出番です。商品のパッケージの印刷などで使われます。

しかし、フツーのチラシなどで特色を使うことは、通常、ありえません。おそらく技術的な問題よりも、コストの問題だと思います。この特色も先程のRGBからCMYKへの変換時と同じ問題が起こり得ます。モニターで確認したときは鮮やかで、きれいだったのに、印刷したら濁った冴えない色になってしまった、なんてことが起こり、クライアントとしては騙されたような気分になります。商品パッケージなど「特色」が使える仕事の場合ではなく、通常のCMYKでの印刷物を作る場合であれば、ハナから特色なんて使うべきではありません。

塗り足し(+3mm)が必要です

印刷には必ず紙を裁断する工程があります。従来型の印刷には四六判などの大きな紙を使います。それをA4などのサイズに切り分けるわけです。その際、切断される位置が最大で3mmほどズレるそうです。
そのため、印刷物のデータを作る場合は、裁断される位置がずれても良いように作ります。白地のままならそのままでも問題ありませんが、地色を着けたり写真が端にある場合は、3mm、外側まで余裕を持たせておきます。それを塗り足しと言います。印刷物のデザインの仕事では常識です。これを知らない方にデザインを頼んでしまったときは、 入稿直前になって塗り足しがないことがわかったため、非常に困ったことになりました。

トンボを付けるべきです

トンボとはトリムマークのことです。形がトンボに似ていることから、かつては「’トンボ」と呼ばれていました。トンボがないと印刷できない、というわけでもないのだが、版ズレという印刷時のトラブルを見つけるための目印であり、塗り足しが足りているか確認するためにも必要なものなので、プロのデザイナーであれば、トンボはつけるのが普通だと思います。トンボがついていなかったら、その理由を聞いてみたほうが良いかもしれません。その時「トンボってなんですか?」というような反応だったら、印刷物制作の経験がない可能性アリ、です。早めに入稿して、データに問題がないか印刷屋さんの方で確認してもらった方が良いかも知れません。

ウェブ用の画像ではピクセル数不足

長辺 2000 pixel(ピクセル pxと略記可能)というと、Web用としては、十分な大きさだと思います。一般的なノートPCのモニターサイズが長辺1920pxですから、ウェブサイト制作であれば、トリミングの仕方にもよりますが、2000〜3000ピクセルあれば、困ることはないでしょう。

しかし、印刷用となると、十分な大きさとは言えません。印刷の場合、画像は350ppi(ピーピーアイ、pixel per inchの略)の解像度が必要となります。これはどういうことかというと、1インチあたりにピクセルが350個並ぶ密度がないと、キレイに印刷できないよ、ということです。インチだと日本の私達にはピンとこないので、cmに換算しますと、140pixel per cm、すなわち1cmの間にピクセルが140個、という密度になります。A4サイズのチラシの場合、短辺が21cmです。先程の「塗り足し」を考慮すると21.6cm ですね。したがって必要なピクセル数は、21.6 X 140で、3024ピクセル。ノートリミングでも最低約3000ピクセルは必要になるということです。

これを知らないデザイナーは、支給された画像を何も考えずにイラストレーター上で拡大したりします。イラレ上での配置画像の拡大は、本当に画像が荒れます。どうしても拡大が必要な場合は、フォトショップで十分な大きさに拡大してから、イラストレーターやIndesign上で大きさを微調整するべきです。これも基本中の基本です。

便利にはなっているのですが

今はネットでデザイナーに直接、安く発注できるようなサービスも普及し、デザイン発注については、より便利な環境になりました。以前はちょっとした印刷物でも広告代理店にお願いせねばならず、代理店も、自分のところの儲けを乗せてくるので、安くはなかったと思います。しかし、何かあっても代理店が責任を持ってくれたので、いわば「保険付き」だったわけです。

デザイナーに直接依頼できることで、コストダウンは可能になりましたが、それは同時に「保険」がなくなったことを意味します。クライアント自らリスクコントロールしなければなりません。「詳しいことはわからん、あとは頼むよ!」という丸投げスタイルが過去のものになりつつあるのかもしれません。


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